35.ブダイの不思議

■魚の世界では同一個体で性転換するものは珍しくありません。このブダイ(今回はハゲブダイ)という魚も雌雄転換します。
ブダイ(舞鯛)は夜間に眠る際に(魚だって寝ます)唾液で作った寝袋に包まる性質がよく知られています。また、いかにも南国の魚という体の色彩から、刺身で食す際には、わざわざ湯引きされブルーの表皮を際立たせたりして、そんなふうに海の中でも食卓でも話題の豊富な魚です。

雌雄転換のシステムはこうではないかと考えられています。
ハゲブダイは基本的には一夫多妻的ハーレムを作ります。強い雄が多くの雌と行動を共にする、ということです。産まれた際には雌雄それぞれ両性の個体がいます。産まれた際の雄を「1次雄」と呼びます。成魚になる過程で群れの中で「強い雄」が決まりますが、そうならなかった雄は雌に性転換します。嫁さんが貰えなかったら自分が嫁さんになる、ということです。
そうして雌の状態で力をつけ(体長増大や経験を積むこと)、群れの雄が衰えたり弱ったタイミングでもう一度雄に転換します。この状態を「2次雄」と呼びます。リターンマッチのようなものですね。
こういったブダイの性質は、環境に適合した、という意味での強い遺伝子を子孫に伝えるためのシステムだと考えられています。自然環境というものが案外安定したものではなく、その不安定な条件の中でも生き抜けるいていける信号を遺伝子に乗せ、後世へ伝えていくという一つの方法ということです。

上の写真は群れの様子ですが、この中で雌雄の争いや淘汰が行われているのです。雌の体色は山吹色から薄い茶色で頭部に濃いパターンが「ハゲ」状に付いています。雄は黄色がかった緑に、鰭の周囲が綺麗なブルーの組み合わせですが、個体によっては雌に成り掛けの変異色のものも見受けられます。
ブダイの餌は死んだ珊瑚や珊瑚藻(さんごも)です。そのために頑丈な歯を持っていて、この歯の様子から英語ではパロット・フィッシュ(Parrot Fish/おうむ魚)と呼ばれています。ちなみに、稚魚は歯がギザギザに分かれていますが、成長とともに横列融着します。そして成魚では、堅い珊瑚もバリバリ砕けるまるで鳥類のくちばしのような歯になるのです。

さて、この時期沖縄本島の真栄田岬では、いくつかのハゲブダイ成魚の群れをみることができます。どの個体も、もの凄い食欲で食べまくっています。食欲は個体にとって、雄が群れの中で伸し上がっていくための文字通り「実」となり「肉」になるのですが、その行動パフォーマンス(俺は健啖だ!という、、)そのものもきっと大切なことなのでしょう。

脱糞しながら泳ぎ回るハゲブダイの群れ。糞といっても要は白い砂なので気色悪くはない。カメラのレンズ前にも糞が舞い上がって視界が遮られてしまう程だ。(水深15メートル)


バリバリと音をたてて食べます。そして食べるはじからブリブリと脱糞しますが、ブダイの糞は造礁珊瑚の石灰質を粉砕したもので、つまり「白い砂」を製造しているのです。珊瑚をかじり白い砂を作るのはブダイだけではありませんが、こうした自然の生態が、南の島の白い砂を作っているのです。当たり前のように思える南の島の白い砂にしても、きちんと生態系のメカニズムが背景にあるのです。

あれ? ところで2次雄になっても嫁さんが貰えなかった雄はその後どうなるのでしょうか。もう一度雌に転換することはない、ということに生物研究者の間で定説になっていますが、、、。


雌の成魚:体長30センチ
雄(恐らく1次雄)で、体色が雌へと変化し始めているような、、、。:体長30センチ

[真栄田岬/沖縄本島中部]
水深12メーター/水温25度/気温30度
2003年6月19日























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